SEC、トークン化米国株に「イノベーション免除」5年の条件付き特例
AI マーケットサマリー
SECの5年間の"Innovation Exemption"は、Tokenized Securities Venuesが、取引所登録なしに、許可制AMMを介してパブリック・ブロックチェーン上でトークン化された米国NMS株式を取引するための条件付きの規制上の道筋を創出し、合成エクスポージャー・モデルを排除しつつ、KYC、監査可能なコントラクト、および株主としての完全な権利に関する要件を厳格化する。これは、準拠した暗号市場インフラおよびブローカーにとって短期的な規制上の不確実性を有意に低減し、オンチェーン株式における機関投資家の実験を加速させる可能性がある。
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米上院でCLARITY法が49対50で否決されてから2日後、SEC(米証券取引委員会)は代替策を打ち出した。9月17日、SECは命令34106402を公表し、正式名称"Innovation Exemption(イノベーション免除)"として、トークン化されたNational Market System(NMS)株式の取引に関する新たな枠組みを提示した。
同命令は、新類型の市場参加者"Tokenized Securities Venues(TSV)"に対し、一定の条件を満たすことを前提に、5年間の条件付き免除を付与する。TSVは、許可制AMM(自動マーケットメーカー)の流動性プールを用い、公的ブロックチェーン上でトークン化NMS株を取引できる一方、全国証券取引所としての登録義務を免れる。SECのポール・アトキンス委員長は"米国の資本市場をデジタル時代へ押し進める"と説明した。
免除は包括的な"白紙委任"ではない。SECはTSVに9つの要件を課した。
1)米国拠点:TSVは米国で設立され、米国内にオフィスを置く必要がある。オフショア主体は対象外。
2)許可制アクセス:取引参加者(トレーダー、流動性提供者)はアクセス前に審査を受ける。匿名取引は禁止。
3)監査可能なスマートコントラクト:スマートコントラクトはパブリックなパーミッションレス分散型台帳上に展開し、第三者が検証・監査できる状態が求められる。
4)株主権の完全付与:トークン保有者は配当、議決権、コーポレートアクション参加など、従来株式と同一の権利を持つこと。合成商品は明確に除外。
5)発行体への通知と異議権:TSVは上場(取引対象化)予定の少なくとも30日前に発行体へ書面で通知する。発行体が異議を唱えた場合、その銘柄は取引対象にできない。無回答は同意とみなす。
6)取扱銘柄数・出来高の制限:取引可能なトークン化株数と総取引量に上限を設ける(具体数値はSECが確定予定)。
7)取引停止の同期:原資産であるNMS株が取引停止となった場合、トークン版も同時に取引停止する。
8)制裁遵守:米国の制裁規制に準拠し、必要なアクセス制限を実装する。
9)詐欺・相場操縦規制の全面適用:連邦証券法の反詐欺・反市場操作規定はトークン化株取引にも全面的に適用される。
加えてSECは、TSVのAMMプールに資本を供給する流動性提供者向けに、条件付きのブローカーディーラー登録免除も示した。一定条件を満たす限り、証券ブローカーとしての登録を不要とする。
今回の動きは、CLARITY法否決への実務的な対応と位置づけられる。9月11日、CoinbaseのCFOアレシア・ハース氏はゴールドマン・サックスの会議で、規制の明確化には(1)議会立法(2)当局によるルールメイキング(3)司法判断という3つの経路があると述べ、仮にCLARITY法が成立しなくても、SECとCFTCによる規則策定は進められるとの見方を示していた。9月15日に同法案が49対50で否決され、9月17日にSECが"イノベーション免除"を発出。法案頓挫からSECの措置まで48時間だった。
アトキンス委員長は採決当日に"立法の有無にかかわらず、投資家とイノベーターのためにSECは成果を出す"と表明しており、今回の免除はその言葉を具現化した格好だ。議会が立法できない局面では、行政当局が免除や行政ルールで空白を埋めることが可能になる。スピードと柔軟性が利点になる一方、免除は撤回され得るうえ、行政ルールは次政権で覆るリスクもある。CLARITY法が成立すればトークン化証券の法的地位が連邦法として明文化され、取り消しは難しくなるが、今回の枠組みはあくまで5年の時限的な許可にとどまる。
勝者と目されるプレーヤーも浮かび上がる。
Securitize:発行体の株主名簿レベルで株式を直接トークン化し、トークン保有者を法的な株主として位置づけるモデルを採る。ニューヨーク証券取引所(NYSE)はSecuritizeとトークン化株取引プラットフォームを共同開発しており、今回の免除は待望の連邦レベルの追い風となる。
Coinbase:議決権や償還権などのアップグレードを進め、"株主権の完全付与"の要件を満たせばTSV申請の対象になり得る。トークン保有者が原資産株式を実質保有していると主張しており、ロビンフッドの法的構成よりSECの線引きに近いとみられる。
Robinhood ChainとARB:ロビンフッドの現行Stock Tokensは要件未達とされる一方、2,000超の銘柄と120超の国・地域をカバーする同事業は成長ストーリーの中核であり、制度対応のインセンティブは大きい。Stock Tokensが"ジャージー島を用いた合成エクスポージャー"から、SEC要件に沿う真のトークン化株へ移行する場合、最も自然な実装先はRobinhood Chainとされる。SECはスマートコントラクトを"パブリックなパーミッションレス分散型台帳"に展開することを求めるが、Arbitrum Orbit上に構築され、Arbitrum Oneで決済するRobinhood Chainは要件に合致する。数千銘柄のトークン化米国株取引がRobinhood Chainで回るようになれば、オンチェーン取引量と手数料収入は、ミームコイン中心の現状を大きく上回る可能性がある。なお、スタンダード・チャータードがARBに提示した10ドルの目標株価は、主にOrbitチェーンによる収益成長を前提としていた。
Arc Chain:CircleのArc ChainはUSDCをネイティブガスに採用し、サブセカンドのファイナリティと規制対応のプライバシーレイヤーを掲げる。TSVがパブリックチェーンでトークン化株取引を展開する場合、監査可能なスマートコントラクトと"パブリックかつパーミッションレス"というSEC要件に沿う機関投資家向け選択肢の一つとして位置づけられる。
一方、劣後するのは純粋な合成型モデルだ。株主権を付与せず価格連動のみを提供するトークン化株は、TSV枠組みから明確に除外された。SEC命令はこれらを禁止してはいないが、コンプライアンス重視の資金と関心は別のタイプへ向かいやすい。
SECは今回を移行措置と位置づけ、実データを収集したうえで恒久ルール化の要否を判断するとした。パブリックコメントも募集している。5年の時限は、2026年から2031年がトークン化証券の"実験的サンドボックス"になることを意味する。
この期間に、オンチェーンでの株式取引量データが恒久ルールの実証基盤となる。AMM流動性プールによる証券取引で、スリッページ、価格発見の効率、操作リスクが実際に検証される。発行体の異議権が現場でどう機能するか(どれだけの企業がトークン化を積極的に止めに動くのか)も政策判断の材料になる。
実験が成功すれば、SECは免除を恒久ルールへ転換し、トークン化株取引は米国資本市場の一部として定着し得る。失敗した場合や政治環境が変化した場合、免除の期限到来後にTSVは事業停止か転換を迫られる。